むかしばなし

ケンケンのむかしばなし5 山の外風呂

田舎暮らしと外風呂

成人してから東北を旅する機会があった。山中の農家のそばを通るとなんと風呂場が庭にあった。よく見れば傍に便所がある。トイレ、お手洗いでは似合わない、便所がふさわしい。私の実家もそうだった。肥え壺がいっぱいになれば父が肥え汲みして桶に入れる。天秤棒をかついで近くの畑に肥やしとして撒く。強烈なにおいだがこんな贅沢な肥料はなかろう。などと東北の田舎風景を見て昔を思い出した。風呂が外にあるのは火災予防に大事なことだろう。庭の敷地が広くないとできないことだ。我が家は風呂と部屋の間に簡単な屋根をつけて雨降りでも濡れずに脱衣所に行けた。風呂へは草履かつっかけを履いて移動する。東北で見た外風呂と便所は雨が降れば傘をさして行くことになる。雪が降ったら寒いだろうと想像したが、私の実家も似たようなものだった。

外にある風呂は虫やネズミの遊び場である。冬でも暖かい土間だから様々な遭遇を体験する。夏のある日「さあ風呂に入るぞ」と裸電球をつけるとゴキブリや大きなイエグモを発見する。これはさっさと追いやる。窓枠に大きなナメクジがくっついていることがある。これは不思議、急にどこから来たのか。「母ちゃん、どうする?」「ほっちょき」。そのままにしておくと翌朝にはいないのだ。さて風呂のふたを開けると時々 ゴキブリが浮いている。「母ちゃん、どうする?」「すくって捨てちょき」「風呂に入りとうない」「死にゃせん」と平気で入る母は強し。兄はこれで風呂嫌いになったのかもしれない。姉は一人で入るようになっていたが時々悲鳴があがっていたようだ。きっとゴキブリかネズミがいたのだろう。それでも姉は長湯の人となった、実に頼もしい。あんなお風呂で楽しく本を読んでいるという。今もって本を濡らさずに読書できるというのは想像がつかない。

風呂は入ってしまえば極楽だ。五右衛門風呂には大学生まで入っていた。他所のユニットバスや木造りの風呂では物足らない。鉄釜なので鉄分もとっていたのだろうか。いい気になって体を洗っているとチクリと痛いときがある。見れば小さなアリがいる。噛まれたらいつまでも痛痒い。風呂も蚊取り線香を焚かねば蚊にかぶられる。冬は冬で寒いが夏も苦労するものだ。夏は明るいうちに一番風呂に入る祖父は気持ち良かっただろうと思う。毎日夕方は鶏を庭に放し飼いしていた。夏はいつまでも明るいので祖父がふんどし一丁で庭を散歩しながら、やがて鶏を小屋へ追いやる。不思議なもので多いときは100羽もいた鶏が、みなおとなしく鳥小屋に戻る。考えてみれば有機飼料と適度な運動は地鶏の飼育方法であり、その卵が旨くないわけがない。卵をかごに詰めて街に売りに行く祖父はかなり小遣いを稼いでいたようだ。10歳の頃、古い部屋を新築することになったので外の便所を使う機会が増えた。そこで気が付いたのだが、父はその大便側に毎朝長居をする。和式で狭いのに器用にしゃがんで新聞を読んでいた。その新聞が家族にまわってくる。母は嫌な顔をしていた。

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