むかしばなし

ケンケンのむかしばなし3 山の運動会

山の運動会

和風の家とは風通し良く作ってある。蒸し暑い西日本の夏をいかに快適に過ごすか、で工夫されているだけに冬は大変であるが、それはまた別の項で記述したい。夏を涼しく過ごすためには床下は広く天井も高く、天井裏も広い。時には子供の遊び場にもなる。夏は昼も夜も、窓や縁側を明け放しだから虫は入る。サワガニは歩く、アリもたかる。たまのおやつをこぼしたりすればアリの行列がすぐにできる。フライパンの油もアリは好物のようだ。知らずに焼きめしでもするとやけに辛い。よく見るとご飯粒の間に炒められたアリが見える。幼い頃にアリの味は辛いということを知った。天井からはあちこちからハエトリガミがぶら下がっていた。面白いようにハエが止まっては捕まる。

山は虫の運動会である。毛虫にゲジにムカデ。大きな蛾も飛んでくる。夜はアブラムシ。ゴキブリなんて言うようになったのはのちのこと。ゴキブリは本当に飛ぶのだ。昔の台所は土間だった。夜、台所の土間に立ち入ると激しい羽音がする。灯りをつけると大きなゴキブリが飛び交っているではないか、思い出したくない光景である。

物心がついた時には犬を飼っていた。これは番犬になる。夕方は放し飼いをしているが近所をうろうろしているだけで遠くにはいかない。狐やタヌキとの縄張り争いもなかったようだ。朝にはちゃんと戻ってきて犬飯を食べていた。犬飯は主にごはんに味噌汁をかけたもの。たまにはイリコが入っていたようだ。犬に玉ネギはよくないと知ったのは大きくなってからだが、たまたま大丈夫だったようだ。我が家の馬小屋跡があったが既に馬はいなかった。代わりにそこにウサギを飼っていた。何匹かの白と茶色のうさぎ。これは食べるわけにはいかない。山に行けば野ウサギの糞がたくさんあった。山は動物の運動場から当然だろう。

ネズミもモグラもたくさんいた。モグラは猫を飼うようになって、捕まえては見せにくるのでその生息実態が判明した。初めはネズミかと思っていたが「母ちゃん、これなあに」「足の爪が違うからモグラじゃろ」なるほど。静かな夜は天井裏がガサガサ~、と変な音があちこちからしてきた。「母ちゃん、なんの音」「ありやネズミの運動会じゃ」なるほどネズミか、と安心して眠ったものだ。何かわからない方がよっぽど怖い。やがて猫を飼いだしたら見事に静かになった。ネズミ一家は山下の集落に引っ越したのだろう。飼い猫は食事に苦労するわけではないのでネズミやモグラを食べるわけではなく、いたぶるだけのようだった。猫はヘビにも果敢に挑んでいく。負けそうになったら助太刀してやろうと離れて見ていたがやがてネコパンチでヘビの方が弱ってきたものだ。さらにゴキブリも退治してくれるのを見た。思えば猫は夜目がきくからだと合点した。猫の野生が山では発揮されるのだろう。不思議なことに鶏やヒヨコは襲わない。仲間意識があるのだろうか。猫は犬ともうまくやってしたたかな生き物だ。犬小屋で猫が寝ていることもしばしば見かけた。傍で犬が困った顔をしていたのを覚えている。

 

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