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空知地方
空知(そらち)
空知地方、空知(そらち)とは良い字を充てたものだ。かつては泥炭地で湿地帯というおよそ農耕に適していない地が青々と稲作中心の穀倉地帯となっている。空知という語感が「北の大地」への希望や祈りのように聞こえてならない。明治以来、こんな美田に変わろうとは、誰が予想できたであろうか?
砂川、滝川、深川ときて旭川へと続くので地名はややこしい。途中の美唄という地名も「びばい」と読めば不思議な言霊があるようにも思えて神妙な気持ちになる。このようにアイヌ語に漢字を当てると、より一層、奇妙な連想が浮かんでくるのは私だけではあるまい。
近年の空知地方は石炭で栄えた街ばかりで、今は活気が無い。かろうじて夕張メロンと滝川の松尾ジンギスカンが全国区の名物か。駅前はいずれも閑散としていて食事にも困るほど。空知は国道が発達している上に道央道という高速道もある。観光資源も乏しいので殆ど通過地点でしかない。街を歩くのはお年寄りの姿ばかりだ。
留萌本線
深川から留萌本線が出ている。日本一短い本線らしい。ついでに北海道でも有数の豪雪地帯。札幌は大したことなくても、岩見沢から北はいつも大雪、ということがしばしばである。本線は深川から西北に走り、途中、石狩沼田、恵比島とあって留萌―増毛(ましけ)までつながっている。今は駅員がいるのは、なんと、留萌駅だけである。
札沼(さっしょう)線
ところで札幌からやや西北に出て北上する札沼(さっしょう)線というJR線がある。おしゃれに学園都市線などと愛称がついている。これは新十津川という滝川駅から1キロという中途半端なところで終着駅となっている。
実は札沼線の沼はこの留萌本線の石狩沼田のことだったのだ。どういう経緯で繋がっていたのに断線したのかは知らないが確かに不用だったろうと思う。なにせ人がいない。道路と函館本線があれば用は足りる、と判断されたのではないか。
恵比島
恵比島はNHKドラマ「すずらん」で有名なロケ地。ドラマの中の架空駅「明日萌駅」の看板も出ている。ここもかつては幌新炭鉱線が出て石炭列車が出たり入ったりで賑わった駅らしい。奥地へ行くとまだ露天掘りの石炭が出るという。
そばの温泉場はホタルの里として売り出している。なかなか良い環境にあるが、もはや人跡未踏の地になるのも時間の問題。短い夏の間だけの温泉宿ではなかろうか。やがて元の原野に戻るのか?
留萌
留萌は鉄道ファンには悲しい場所でもある。羽幌線のD61重連は夢幻。賑わった駅も広大な草地となって面影もない。深川機関区留萌支区にD61型SLが集中配備され、D51、9600型とともに石炭、海産物、木材の輸送に頑張っていたなんて、どこの世界の話だろうか?未だに立派な留萌駅舎が、かえって空しい。
駅前の商店街はそのままだけど人気はない。駅近くの小さな公園にD613号機が保存されている。これもまた、なんとも狭苦しい場所で息が詰まる思い。SLの状態はまあまあだが、こんな場所ではかつての活躍のイメージは湧かない。
増毛
増毛は高倉健主演の映画「駅」のロケ地。さらに留萌本線の終着駅。終着駅という言葉はどこか旅情を感じるが現実には、北海道においても、その多くは旅情が湧かない。
駅員もいない。いきなりの尻切れトンボ、という感じ。全国そうかもしれない。最近、終着駅で感動したのは稚内駅だけである。函館駅は別の意味で感激する。夕張や室蘭、様似、江差、根室と貴重な終着駅が多数ある道内では、観光資源としてもっと活用する必要があると思う。
そもそも「道の駅」の成功ぶりをなんとする?広大な駐車場、地元名産のレストラン、イベント、清潔なトイレがあればきっと駅前は賑わう…しかし、それでは旅情どころでは無くなってしまうか…。
増毛は地酒と魚介類のうまい小さな漁村であるが、ここも冬は厳しい陸の孤島となりうる。かつてはここから南の集落へは鉄道はおろか道も無くて船で行き来していたとのこと。
高知県の険しい断崖絶壁の下の漁村を思い出した。しかし土佐は台風が来るが雪はない。どちらが厳しいか?…そりゃ北国が厳しいに決まっている!(2002.9/15)